特別展「天空のアトラス イタリア館の至宝」レポート|万博イタリア館の感動は、閉幕しても終わらなかった

アート

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結論:この展覧会は「万博イタリア館の延長戦」であり、万博の文化的遺産を記録した特別展でした

先に結論を言います。特別展「天空のアトラス イタリア館の至宝」は、大阪・関西万博で屈指の人気を集めたイタリア館の展示を、閉幕後に美術館という静かな空間で「追体験」できるようにした、極めて貴重な展覧会でした。出品の中心は、わずか3件。古代彫刻《ファルネーゼのアトラス》、ペルジーノ《正義の旗》、レオナルド・ダ・ヴィンチ『アトランティコ手稿』。いずれも万博イタリア館で展示された本物で、そこに伊東マンショの肖像画(複製)と衣装再現が加わり、「神話と宇宙」「信仰と交流」「英知と創造」という3つのテーマで、古代からルネサンス、そして現代へとつながる物語が紡がれていました。本展はすでに会期を終了しています(2026年1月12日閉幕)。この記事は「これから行く人向けの案内」ではなく、万博イタリア館の人気がなぜ生まれたのか、そしてその感動が閉幕後にどう受け継がれたのかを記録するレポートとして書きます。なお、この記事で使う写真は、すべて運営者が現地で撮影したものです。展覧会の公式画像は使用していません。

展覧会の基本情報(会期は終了しています)

出典は大阪市立美術館の公式サイトと同館のプレスリリースです。

  • 展覧会名:日伊国交160周年記念 大阪・関西万博開催記念 特別展「天空のアトラス イタリア館の至宝」
  • 会場:大阪市立美術館(大阪市天王寺区茶臼山町1-82、天王寺公園内)
  • 会期:2025年10月25日(土)〜2026年1月12日(月・祝)※終了済み
  • 開館時間:午前9時30分〜午後5時(入館は午後4時30分まで)。なお11月21日以降、会期中の金・土・日・祝日(12月13日・20日を除く)は午後7時まで延長開館(最終入館は午後6時30分)でした
  • 休館日:月曜日(祝日の場合は開館し、翌平日休館)、12月29日〜1月2日
  • 観覧料(税込):一般1,800円、高大生1,500円、小中生500円(いずれも20名以上の団体料金は1,600円/1,300円/300円)。未就学児、障がい者手帳等をお持ちの方(介護者1名を含む)は無料(要証明)
  • 入場方式:日時指定予約優先制
  • 主催:大阪市立美術館、朝日新聞社
  • 後援:イタリア大使館、在大阪イタリア総領事館、イタリア文化会館-大阪、公益財団法人大阪観光局、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会
  • 協賛:アルテリア、JR西日本
  • 協力:大阪市立科学館、INVITO A CORTE、BRACCO、日欧商事

会場は、天王寺公園の中にある大阪市立美術館。美術館入口の大理石の壁には「万博の感動、再び!」と書かれた大きなバナーが掲げられていました。

美術館入口の大バナー「万博の感動、再び!」
展覧会チラシ


なぜ万博イタリア館はあれほど人気だったのか

2025年4月13日に開幕し、10月13日に閉幕した大阪・関西万博。その中でイタリア館は「芸術が生命を再生する」をテーマに、古代から現代までの名品を展示し、連日長い行列ができる屈指の人気パビリオンとして報じられました。人気の理由は、映像やレプリカではなく「本物の名品」を次々と持ってきたからです。とりわけ《ファルネーゼのアトラス》は、万博で日本初公開となった古代彫刻でした。ただし人気であるがゆえに、予約が取りにくく、入館できても混雑の中で足早に眺めるしかなかった、という声も少なくありませんでした。その心残りに応える形で企画されたのが、本展です。万博閉幕から間もない10月25日に、大阪市立美術館で開幕しました。主催者は本展の目的を「万博の文化的遺産(レガシー)を次世代へ継承すること」と明言しています。2026年に日本とイタリアが国交160周年を迎えることを祝う記念展でもあります。展示は「厳選3件」が基本方針でした。

第1章「神話と宇宙」:《ファルネーゼのアトラス》

最初の章のタイトルは「I 神話と宇宙 Mythology and Universe」。ここで迎えてくれるのが、本展の顔、《ファルネーゼのアトラス》です。

章タイトル壁「I 神話と宇宙 Mythology and Universe」
ファルネーゼ・アトラス像の接写


《ファルネーゼのアトラス》は、西暦2世紀の大理石彫刻。高さ193cm、天球儀の直径は102cm。所蔵はイタリアのナポリ国立考古学博物館です。ギリシャ神話の巨神アトラスが、古代ギリシャの宇宙観を映す天球儀を担ぐ姿を表しています。この像の見どころは、アトラスが担ぐ「天球」そのものです。球面には星座の浮彫がびっしりと刻まれています。展示では、この天球の星座を解説するプロジェクション映像も用意されていました。48星座や黄道十二宮が、天球の上で順に示されていく映像です。

天球儀の星座を解説するプロジェクション映像

「ファルネーゼ」の名は、かつてこの彫刻を所有したファルネーゼ家に由来します。「天空のアトラス」という展覧会のタイトルは、このアトラスが担ぐ「天空(天球)」から取られています。

第2章「信仰と交流」(1):ペルジーノ《正義の旗》——ラファエロの師の傑作

2つ目のテーマは「信仰と交流」。ピエトロ・ヴァンヌッチ、通称ペルジーノ(1450–1523)の《正義の旗》です。正式な題名は《正義の旗―聖フランチェスコ、シエナの聖ベルナルディーノ、祈る正義兄弟会の会員たちのいる聖母子と天使》。1496年の作で、油彩・カンヴァス、218×140cm。所蔵はイタリア・ペルージャのウンブリア国立美術館です。

ペルジーノ「正義の旗」の展示全景

ペルジーノは、盛期ルネサンスの巨匠ラファエロの師匠として知られる画家です。大阪市立美術館の公式解説は、ペルジーノを「15世紀イタリア最大の画家」と紹介しています。「旗」という言葉のとおり、これはもともと宗教行列などで掲げられた旗(ゴンファローネ)として作られた絵画です。万博イタリア館では次々と作品が目に入る構成でしたが、美術館ではこの1点の前に長く立ち止まることができます。

第2章「信仰と交流」(2):伊東マンショの肖像と衣装再現——440年前の日本とイタリア

「信仰と交流」の章には、もうひとつ、日本人にとって特別な展示がありました。天正遣欧少年使節の一員、伊東マンショです。伊東マンショは、1582年(天正10年)に九州のキリシタン大名の名代としてヨーロッパへ派遣された少年使節の主席正使でした。そのマンショを描いた肖像画(ドメニコ・ティントレット作とされる)が、万博イタリア館では実物が公開されていました。本展の大阪市立美術館では、その肖像画は複製の展示となり、あわせて科学解析による制作過程の研究紹介や、肖像画をもとに再現された衣装が展示されていました。

伊東マンショの衣装再現

解説パネル「伊東マンショ 星と海と旅の空(衣装再現プロジェクト)」とティントレット肖像画の映像

 

衣装再現は、赤いベルベットの生地に、レースの襞襟(ひだえり)、星形のペンダントを備えた姿で再現されています。展示パネルによれば、この再現は当時の縫製技術と天然素材にこだわったもので、襞襟だけでも6,000針以上の手縫いが施されているといいます。マンショの肖像は、

第3章「英知と創造」:レオナルド・ダ・ヴィンチ『アトランティコ手稿』

3つ目のテーマは「英知と創造」。レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452–1519)の『アトランティコ手稿』から、2つの紙葉が展示されました。所蔵はミラノのアンブロジアーナ図書館です。1点目は、第156紙葉 表《水を汲み上げ、ネジを切る装置》(1480–1482年頃、紙にペン・インク・水彩、255×210mm)。本展で日本初公開となりました。2点目は、第1112紙葉 表《巻き上げ機と油圧ポンプ》(1478年頃、紙にペン・インク、203×286mm)です。

レオナルド・ダ・ヴィンチ「アトランティコ手稿」の拡大写真パネル

『アトランティコ手稿』は、レオナルドの科学・技術・芸術にわたる思考を記録した手稿です。美術館の公式解説はこれを「科学・芸術・思想が融合した万能の天才の手稿。知の探求の原点」と位置づけています。なお会場では、時計を映すモニターなど映像展示もあり、場所によって「写真撮影可・動画不可」のサインが掲げられていました。

時計を映すモニターと撮影可・動画不可のサイン

万博イタリア館の「記録」として、この展覧会が残したもの

本展の核は「厳選3件+伊東マンショ」です。万博のパビリオンは、半年間だけ存在する祝祭の空間です。閉幕すれば展示物は世界へ帰っていきます。本展は、その「帰国」の直前に、作品たちを美術館のフォーマットで記録し直す試みだったと言えます。入口のバナーの言葉、「万博の感動、再び!」は、単なる宣伝文句ではありません。万博で混雑のために通り過ぎてしまった作品を、静かな展示室で、解説とともに、もう一度自分の速度で見直す。その機会を用意したことが、本展の最大の功績でした。また本展は、万博に行けなかった人にとっても意味がありました。本展は一般1,800円の観覧料と日時指定予約で、同じ至宝に再び会える場を用意したのです。このブログ「にゃんこ太郎|推し活とアート」がアフター万博のイベントを追い続けているのも、同じ理由からです。

作品データまとめ(公式発表に基づく)

《ファルネーゼのアトラス》

    • 制作:西暦2世紀/素材・大きさ:大理石、高さ193cm、天球儀の直径102cm/所蔵:ナポリ国立考古学博物館(イタリア)/備考:2025大阪・関西万博で日本初公開

ペルジーノ《正義の旗》

    • 作者:ピエトロ・ヴァンヌッチ(通称ペルジーノ、1450–1523)/正式題名:《正義の旗―聖フランチェスコ、シエナの聖ベルナルディーノ、祈る正義兄弟会の会員たちのいる聖母子と天使》/制作:1496年/素材・大きさ:油彩、カンヴァス、218×140cm/所蔵:ウンブリア国立美術館(イタリア・ペルージャ)/備考:ペルジーノはラファエロの師匠

レオナルド・ダ・ヴィンチ『アトランティコ手稿』

    • 第156紙葉 表《水を汲み上げ、ネジを切る装置》:1480–1482年頃、255×210mm。本展で日本初公開

    • 第1112紙葉 表《巻き上げ機と油圧ポンプ》:1478年頃、203×286mm

    • 所蔵:いずれもアンブロジアーナ図書館(イタリア・ミラノ)

伊東マンショ関連

    • ドメニコ・ティントレット作とされる肖像画:万博イタリア館では実物を公開。本展では複製を展示

    • 肖像画をもとに再現した衣装:襞襟だけでも6,000針以上の手縫い(展示パネルより)

チケットと入場方式の記録——本展もまた「争奪戦」だった

本展は日時指定予約優先制でスタートしました。会期途中、プレイガイド分のチケットは次々と「予定枚数終了」となり、11月18日以降は美術館の券売窓口で当日券の取り扱いが始まりました。当日券は開館日の午前9時15分から販売され、「入場時間券」が配布される方式で、お一人様2枚までの制限付きでした。さらに11月21日以降は、金・土・日・祝日に午後7時までの延長開館(12月13日・20日を除く)が実施されました。

万博のイタリア館と、本展の違い

万博イタリア館は「芸術が生命を再生する」をテーマに、古代から現代までの名品を幅広く並べた、イタリア文化の総覧でした。対して本展は、出品を厳選3件に絞った「美術史の物語」です。万博が「出会いの場」だとすれば、本展は「読み直しの場」。両方を体験した人は、イタリア館という一つのパビリオンを、2つの異なる形式で2度楽しんだことになります。

本展は終わりました。では、今から何を楽しめる?

本展は2026年1月12日に閉幕し、現在は観覧できません。第一に、大阪市立美術館そのものです。第二に、図録・書籍で学び直すことです。

第三に、アフター万博の動きを追うことです。このブログでも、アフター万博の展示やイベントは引き続き現地レポートしていく予定です。

アフター万博を追う人へ——本展が示した「引き継ぎ」のかたち

本展が示したのは、万博のレガシーの「引き継ぎ方」のひとつの完成形です。ポイントは「厳選」です。全部を残すのではなく、物語の核になる3件に絞り、テーマで再構成したからこそ、美術館の展示として成立しました。レガシーとは、モノを残すことだけではなく、物語を編集し直して次の受け手に渡すことでもある。本展はそのことを静かに証明していたと思います。

まとめ:結論の再確認

特別展「天空のアトラス イタリア館の至宝」は、万博イタリア館の至宝3件――《ファルネーゼのアトラス》、《正義の旗》、『アトランティコ手稿』――を厳選し、伊東マンショの肖像(複製)と衣装再現を添えて、「神話と宇宙」「信仰と交流」「英知と創造」の物語として再構成した展覧会でした。会期は終わりましたが、作品たちが大阪に残した印象は消えません。この記事が、その記録の一部として残ればうれしいです。<

参考資料

    • 大阪市立美術館 公式サイト「日伊国交160周年記念 大阪・関西万博開催記念特別展 天空のアトラス イタリア館の至宝」

    • 大阪市立美術館 プレスリリース

    • 展示風景の記述は、運営者が現地で撮影した写真(ファイル137〜146)の記録に基づきます


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